弱波堤

応募対象の概要

岩手県普代村の太田名部漁港を敷地とする。この土地では、既存の堤防の嵩上げが議論されているが、小さな港町に巨大な堤を現出させることは、人々と海の関係を希薄なものにさせてしまうのではないだろうか。そこで本計画では、既存の建築群の耐震補強の役割を持ち、津波を減衰させる小さな堤(弱波堤)の群を提案する。

フェーズフリーな性質の概要およびアピールポイント

災害大国である日本では、各港町に応じた津波対策として防潮堤や防波堤がカタチに表れている。嵩上げが繰り返されるそれらは、防災上、必要不可欠な存在であるにもかかわらず、日常とは切り離された関係となっている。一方で、港町では漁業や観光業が衰退の一途をたどっている現状も顕著に表れている。そこで、港町における日常の賑わいとともに防災計画が拡がっていくフェーズフリーな建築群を計画することにより、生業と防災の共存、土木と建築の融和を目指す。港町の日常に絡まりながら範囲を拡大した建築的スケールの小さな堤(弱波堤)は、群となることにより、非常時には土木的スケールの津波の勢いを弱めるための大きな役割を果たす。
日常時 日常時
線状に計画した弱波堤の配置は、港町の生業の動線に沿い、既存の要素と空間を分節しながら拡がっていく。それに伴って形成される余剰空間に対し、移住者を迎え入れる体制づくりとして観光要素を挿入する。これにより、地域住民の新たな暮らしと港町を訪れた人の賑わいが創出され、堤が日常に寄り添ったものとなる。
非常時 非常時
防波堤-防潮堤間の既存建築の耐震補強を兼ねた建築的スケールの弱波堤は、群となることにより、非常時には土木的スケールの津波の勢いを弱めるための大きな役割となる。津波時、L字やT字に配置した弱波堤は、瓦礫をせき止め、波の威力を打ち消し合いながら、既存の防波堤と防潮堤と合わせて段階的に津波を減衰させる。